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内容・講師

【講座の紹介】

●「俳優が、非母語のテキストを発話する時」(よこたたかお)

 私の講座では、現代フランス語戯曲を取り上げながら、原文と和文を参照しながら、自分たちで上演台本を作る、ということをやろうと思います。

 ”翻訳”というと、外国語の習得が必須だと思われるかもしれませんが、このWSでは外国語ができなくても大丈夫です。非母国語を訳すという体験をしていただけます。母国語を離れて、自分自身が持っている言葉で何かを表現しようとする、その豊かさ、楽しさ、創造性を味わってもらえたらと思います。


・「紡ぎなおすリズム」(山口惠子)


・「他者の言葉を語る身体のスキャンダル」(竹中香子)

フランス語に【pénétrer】という動詞がある。主に他動詞としてよく耳にするこの動詞は、以下のような意味を持つ。

【pénétrer】[他動]

➊ …に入り込む,浸透する.

➋ 〔寒さなどが〕…の身に染みる;〔感情などが〕…を満たす.

➌ 〔思想,流行などが〕…に広がる,行き渡る.

➍ 〔秘密など〕を見抜く,洞察する.

➎ 〔男性器〕を挿入する.

私は多岐にわたって、この【pénétrer】が苦手である。自分ではない「なにか」が自分の身体の中に侵入してくることに、大きな脅威を感じる。

しかし、私が、俳優として、誰かが書いた文章や、誰かの気持ちを「台詞」として、自分の身体を用いて「語る」ことは、この【pénétrer】的な行為に他ならない。

フランス語には、「代名動詞」というものがあり、ほとんどの動詞に適用される。詳しい説明は割愛するが、「代名動詞」とは、「代名詞」とセットになった動詞のことで、「目的語の代名詞」がセットになっている動詞をさす。

【pénétrer】の場合、以下のように変化し、意味も変わる。

【se pénétrer】[代動]

➊ 〈se pénétrer de qc〉(思想など)を確信する.  深く理解する.

➋ 混じり合う.

【pénétrer】が【se pénétrer】になった途端、一気に、心地よさが増し、異物に対していただいていた「恐怖」が消えるのである。

他者の言葉を自分の身体を使って語ることは、そもそも非常にスキャンダラスである。

この事実を、俳優の仕事という理由だけで、できて当たり前のことと捉えるのは非常に危険である。

あえて、他者の言葉を語るということのスキャンダルを前提に、「他者」が侵入してくることの気持ち悪さと心地よさを検証していきたい。


●「没入の言語、批評のリズム」(渡辺健一郎)


●「ひとりだけど、ひとりで言わない」(和田ながら)

ひとり芝居の演出をこれまでいくつかやってきました。つまり「舞台上でひとりの出演者がひとりだけでせりふをしゃべっている」という逃げ場のないミニマムな状況を、どんなふうにおもしろくできるのか、たびたび腐心してきたといえます。そんな経験からなにかおすそ分けできることがあるとしたら、「ひとりだけど、ひとりで言わない」ような仕方でせりふを扱ってみようとする、というアイディアのいくつかです。このワークショップでは、そのアイディアを参加者のみなさんと一緒に試したり、遊んだり、膨らませたりしてみたいと思います。

【講師プロフィール】
竹中香子
2011年に渡仏し、日本人としてはじめてフランスの国立高等演劇学校の俳優セクションに合格し、2016年、フランス俳優国家資格を取得。パリを拠点に、フランス国公立劇場を中心に多数の舞台に出演。フランスの演劇教育や俳優のハラスメント問題に関するレクチャーやワークショップを行う。2021年、フランス演劇教育者国家資格を取得。 主な最近の出演作に、市原佐都子作・演出『Madama Butterfly』『Madame Chrysanthemum』、太田信吾作・演出『最後の芸者たち』。2023年1月より、太田信吾の映像作品をマネージメントする会社「ハイドロブラスト」のプロデューサーに就任。


和田ながら
演出家、ユニット「したため」主宰。京都造形芸術大学大学院芸術研究科修士課程修了。主な作品に、作家・多和田葉子の初期作を舞台化した『文字移植』、妊娠・出産を未経験者たちが演じる『擬娩』などがある。美術、写真、音楽、建築など異なる領域のアーティストとも共同作業を行う。2018年よりUrBANGUILDブッキングスタッフ。2019年より地図にまつわるリサーチプロジェクト「わたしたちのフリーハンドなアトラス」始動。NPO法人京都舞台芸術協会理事長。

山口惠子
京都在住、演劇をつくる人。The Rose Bruford Collgeでヨーロッパ演劇を学ぶ。帰国後、京都を拠点に俳優として活動し、松本雄吉、マレビトの会、したため、りっかりっか*フェスタ(沖縄)の作品に出演する。 2011年に演劇グループBRDGを立ち上げ、日々出会う人たちへのインタビューやフィールドワークを用いて作品を創作。2021年〜現在まで東京芸術祭 Asian Performing Arts Camp ファシリテーターを務める。京都・東九条のコミュニティカフェほっこりで店員として働きながらラジオを放送したり、さまざまな地域の活動に演劇の人として参加している。セゾン文化財団2023年度セゾン・フェロー。

渡辺健一郎
批評家・俳優。1987年生。ロームシアター京都リサーチプログラム「子どもと舞台芸術」2019-2020年度リサーチャー。2021年「演劇教育の時代」で第65回群像新人評論賞受賞。著作に『自由が上演される』(講談社、2022)。追手門学院大学非常勤講師(2023〜)

よこたたかお
舞台技術者、翻訳家。パリ第十大学修士(演劇学)、二児の父(育休取得経験者)。舞台技術者として様々な舞台に携わる一方で、舞台作品の演出、文芸書の翻訳などを手掛ける。専門は劇場建築史(フランス18世紀の劇場建築)。BARACKE主宰。主な演出作品『イグレーヌ・バリエーション』(2021)、『紙風船 - Foley Mix -』(2022)。今冬に初となるベイビーオペラ『オルフェ』の演出を予定。